| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-222 (Poster presentation)

高山常緑針葉樹林サイトにおける生態系機能評価研究-10年目の総括と展望-

斎藤琢(岐阜大・流域圏)

岐阜県高山市のスギ・ヒノキが優占する常緑針葉樹林サイト(AsiaFlux TKCサイト)では、生態学、水文学、気象学など学際的な視点から生態系機能評価に関連した統合研究を行ってきた。炭素循環に関しては、正味の年積算炭素固定量(純生態系生産量)は3.3~3.5 Mg C ha-1 yr-1であり、そのほとんどが植物体に蓄積されていること、春の光合成有効放射量および春の最大光合成能を規程する冬季の気温と融雪のタイミングが光合成量に顕著な影響を与えることが示唆された。また、生態系モデルを利用して落葉広葉樹林生態系の炭素分配と比較した結果、常緑針葉樹林では春先に、落葉広葉樹林では夏季に、炭素固定機能が高いこと、この両生態系における炭素固定機能の相違は春先の両生態系の群落フェノロジーの相違に起因していること、常緑針葉樹林は顕著に炭素代謝機能が高いこと、が明らかとなった。蒸発散量に着目した研究や地上リモートセンシングによる光合成量評価研究では、土壌乾燥ストレスがほとんどなく乾燥による極端な光合成量の低下が起きにくいことが明らかとなった。これまでに観測されたデータは、AsiaFlux、PENといった観測ネットワークで公開されており、蓄積された知見は、東アジア地域を対象とした炭素収支に関する統合解析や生態系モデルによる流域・地域スケールの生態系機能評価といった広域研究へ貢献している。今後の課題として、長期気候変動に対するスギ・ヒノキ林の応答特性の解明、生態系機能評価研究から生態系サービス評価研究への展開、近年注目されている植物起源揮発性有機ガス(BVOC)に関する観測・知見の蓄積、といったことが挙げられる。


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