| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-002 (Poster presentation)

菊池川水系におけるニッポンバラタナゴの遺伝的多様性

*甲斐桑梓(九大・農),栗田喜久(九大・農),川本朋慶(九大・農),菅野一輝(九大・農),皆川朋子(熊大・工),鬼倉徳雄(九大・農)

九州北部ではかつての海域、すなわち縄文海進期の海面下でも一次性純淡水魚が普通に見られる。そのうち、ニッポンバラタナゴ(ニチバラ)などの氾濫原性魚類は、生息域を河川ではなく平地の細流に持つため、海面上昇に伴う平地の水没はその分布を大きく左右したはずである。そして、約5000年前の海進期以降に大きな海面低下はないため、これらの低平地への分布拡大は、水没を免れ生残した集団がそこから拡散したことを想像させる。このような分布拡大を仮定した時、海進期の海面より上流側に多様性の重心があり、そこから扇状に下流側へと拡散した可能性が想定される。本研究では、一次性純淡水魚のうち氾濫原性魚類に着目して、それらの種多様性と遺伝的多様性の中に、海進期以降の低平地での魚類の分布拡大の痕跡を探る。

対象地は、熊本県の菊池川水系が流れる玉名平野(平均標高約3m)で、海進期には約75%が海面下にあり、陸部の大半は平野の北東部に集中したと推定される。大半の河川の中下流は海進期には海面下で、北東部の菊池川支流木葉川だけが海面上であった。本研究では玉名平野の9河川で、ニチバラのmtDNA解析と魚類相調査を行い、比較対象として筑後平野の南側を流れる2河川で同mtDNAを分析した。

ニチバラmtDNAのハプロタイプ数、遺伝子多様度は平野の縁辺部、特に右岸側で低い値を示し、氾濫原性魚類の種数も縁辺河川で少なかった。海進期に水没しなかった河川ではハプロタイプ数と魚種数で最高値を示した。このことは、海進期の海面より上に多様性の重心があり、そこから扇状に下流へと拡散した可能性を示唆している。また、菊池川の右岸に着目した時、魚種数とハプロタイプ数の間に正の相関関係が認められた。


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