| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-075 (Poster presentation)

淡水産トウガタカワニナ科貝類における海洋分散の可能性:幼生飼育および遺伝子解析から

*日髙裕華, 狩野泰則 (東大・大海研)

トウガタカワニナ科は熱帯から亜熱帯島嶼河川の淡水および汽水域泥底に生息する巻貝の一群である。同科貝類には、淡水中で孵化した幼生が海まで下って成長、河口付近で着底し、川を遡るという生活史をもつ両側回遊種が含まれるとされる。しかしながら、幼生生態の検討や地域集団間の遺伝的構造比較は行われておらず、海洋での分散期間および距離の推定に有用な情報は得られていない。

そこで、ベリジャーとして母貝育児嚢から孵出する同科の邦産7種について、海洋での分散を推定するために、海水・汽水(1/2海水)・淡水の各条件にて浮遊幼生の飼育実験を行った。その結果、いずれの種でも淡水中では成長が見られず全個体が2週間以内に死亡する一方、海水中では顕著なサイズ増大が見られ、2〜3週間で足を形成しペディベリジャーとなることが判明した。汽水中における成長・生残率は種によって異なり、5種は海水条件と同じく成長したが、残る2種は足の形成前に死亡した。ミトコンドリアCOI遺伝子配列を比較したところ、幼生期が長く(3週間〜)海水中でのみ成長する2種でより高い塩基多様度が示された。一方で、汽水中でも成長・変態可能な5種(幼生期:2週間〜)では、複数の島嶼個体群で同一ハプロタイプが共有され、また塩基多様度も低い傾向にあり、幼生飼育実験の結果と完全に整合的であった。

以上の新知見は、浮遊期をもつ同科貝類が両側回遊性であることを支持し、種ごとに異なる海洋分散能力をもつことを示す。また、いずれの種も熱帯・亜熱帯島嶼に生息する多くの両側回遊動物種に比べ顕著に短い幼生期をもち、海洋分散は限定的であること、よって地域個体群および生息環境の保全重要性がより高いことを示唆する。


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