| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-160 (Poster presentation)

野生動物の目撃の有無は観光客にとって重要か? 知床世界自然遺産地域を事例として

*栗本実咲(首都大・都市環境), 保坂哲朗(首都大・都市環境), 沼田真也(首都大・都市環境)

野生動物観光を持続的に運営するためには野生生物保全に加えて、観光の質を高めることが重要である。観光の質は観光客の満足度と関連し、観光客の満足度が高ければ経済的な持続可能性は高くなることが知られている。観光客の満足度は年齢や学歴などの内的要因に影響されることが知られているが、観光地における経験や期待の度合いによる影響も受けると考えられる。

世界遺産地域の知床はヒグマやシカの生息地として知られているが、ヒグマに対する餌やりやヒグマ出没時の観光客の管理などが観光における課題となっている。

本研究では当該地域の観光を持続的に運営するための条件を明らかにするため、知床五湖における(1)ヒグマに関連する観光資源(ヒグマそのもの、足跡、食痕、糞など)の分布パターンの把握と、(2)観光客の満足度に影響する要因を明らかにすることを目的とした。

第一に、2012-2014 年のヒグマ新規痕跡と目撃情報からカーネル密度図の作成によるヒグマ関連の観光資源評価を行った。その結果、食痕とそれ以外では空間的、季節的分布パターンが異なることが明らかになった。続いて、観光客の体験、動物の関心、観光嗜好、評価、属性を対面式アンケート調査により評価したところ、動物に関連する体験はほぼなかったが、満足度は極めて高いレベルにあり(平均4.1 点/5点満点)、体験の差による満足度の違いは見られなかった。一方で、動物への関心、居住地、旅行形態が満足度に有意に影響を与えていることが明らかになった。

以上から、当該地域の観光客の満足度を高める上で、餌付けなどに代表される遭遇頻度を高めるような取り組みは必要ではなく、季節に応じ観光客に認知されていない痕跡の案内や解説を充実させることが重要と考えられる。


日本生態学会