| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-026 (Poster presentation)
個体群生態学のこの50年間の歴史の中で、さまざまな地域に生息するさまざまな分類群にわたる生物種の統計学的データが数多く蓄積されてきた。それらのデータを使って個体群統計量を導きだすためのモデルとして、推移行列モデルがよく用いられている。特に、弾性度解析(Elasticity analysis)は、推移行列モデルの解析手法の中でも最もよく行われる解析であり、Franco & Silvertown (2004) の有名な論文がある。彼らは、繁殖、滞留、成長の弾性度ベクトルをあらわす三角弾性度空間グラフを用いて、植物たちの弾性度が草本・木本、一回繁殖型、多回繁殖型のそれぞれについて、グラフ上のある領域を占有することを明らかにした。その結果によれば、現存する植物たちには、繁殖率依存的に個体群を維持しているグループもあれば、滞留率依存的な植物群もあることがわかる。彼らの研究は今現存する植物群がどのような特徴を示すかを弾性度空間グラフ上に記したものだが、どのようなプロセスを経て現在の弾性度ベクトルを獲得したかについては研究されていない。
そこで本発表では、ポアソン分布から得られる繁殖率とランダム行列から得られる滞留率・成長率を用いて仮想的な推移行列モデルを構成し、1000個の仮想行列がどのような弾性度ベクトルをもっているかについて解析を行った。それらのベクトルは、三角弾性度空間上に均一に分布するわけではなく、正三角形のある領域に集中しており、Francoらが示した現存植物分布のどれにも一致していなかった。また、行列要素の多くがゼロで、ai,i およびai+1,iだけが正の要素である滞留率・成長率の場合には、弾性度ベクトルが正三角形グラフの中で直線上に配置されることがわかった。さらに、繁殖と生存の間にトレードオフがある場合や個体群成長率が1未満の場合の解析を加え、ランダム行列から現存する植物たちへの進化の道筋を議論したい。