| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-041 (Poster presentation)

競争により連結された捕食者-被食者系:競争の非対称性が個体群動態を安定化する?

*稲葉優太,谷内茂雄(京都大学生態学研究センター)

複雑な食物網の性質を理解することは生態学における中心的な課題のひとつである。そのための有力なアプローチのひとつに、食物網を構成する「モジュール」に着目し、その性質の理解をもとに食物網全体の性質を理解しようとする試みがある。これまで研究されてきた代表的なモジュールには、ギルド内捕食系やダイアモンド構造などがあり、「連結された捕食者-被食者系(coupled predator-prey system)」も多くの食物網にみられるモジュール構造である。これら一連の理論研究では、被食者間の競争を対称的と仮定していることが多いが、近年のフィールド研究からは、競争はむしろ非対称な場合が一般的であることが示されている。他方で、食物網全体の構造においては、非対称的であるほうが、対称的な場合に比べ、系が安定化することが理論的に示されている。そのため、連結された捕食者-被食者系のレベルにおいても、競争の非対称性が系に与える影響を明確にすることは重要である。

本講演では、被食者間競争の対称性が崩れた場合、連結された二つの捕食者-被食者系の性質がどのように変化するかを、数理モデルで解析した結果について報告する。まず捕食者がスペシャリストであり競争がある程度弱いとき、被食者間の競争が対称である場合に比べ、非対称である方がその系は安定化する傾向にあった。この結果は、種間競争が非対称的である方が、つまり一方の競争種が優勢である方がより安定な共存を実現することを意味している。一方で、競争が極端に強い場合や、捕食者がジェネラリストとなって両方の被食者を捕食する場合には、競争の非対称性は系を不安定化する傾向を示した。つまり、二つの捕食者-被食者系がある程度弱く連結されている場合には、競争の非対称性によりこの系は安定化する傾向にあった。


日本生態学会