| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-044 (Poster presentation)

マルチアイソトープ解析による森林施業が河川生態系へ及ぼす長期的影響とその解明

*冨樫博幸(水研セ・東北水研),石川尚人(海洋研究開発機構)加藤義和(京大・生態研),吉村真由美(森林総研・関西支所),神松幸弘,由水千景(京大・生態研),徳地直子(京大・フィールド研),大手信人(東大・農),陀安一郎(京大・生態研)

森林は生物多様性に富んだ生態系であり、我々はその生態系機能やサービスの恩恵を受けながら生活している。特に人工林の場合、人為的撹乱である森林伐採が河川水質、並びに河川生態系へ負の影響を及ぼすことが指摘されている。しかし、研究者が一生を通しても森林成立という遷移過程を追跡する事は困難であるため、森林施業が河川生態系へ及ぼす長期的影響についての情報は未だに不足している。

奈良県に位置する護摩壇山試験地は、集水域単位の皆伐施業が行われ、森林管理が河川生態系へ及ぼす長期的影響を把握する事ができる。伐採からの時系列に伴う生物群集、及び食物網構造の変化を明らかにするため、伐採からの経過年数の異なる6地点(5-90yr)を選定し、野外調査を行った。得られた生物試料は可能な限り細かい分類群に同定後、各種同位体比を測定した。

水生昆虫の群集構造は時空間的に大きく異なり、若齢林(12yr)では付着藻類を餌とする刈取食者が、高齢林(90yr)では陸上植物リターを餌とする破砕食者が量的に多かった。また、付着藻類、及び水生昆虫の炭素安定同位体比は、伐採からの時系列に伴い低下していた。このことは、森林の遷移過程において水生昆虫の餌資源が付着藻類(内在性)からリター(外来性)へシフトしていることを意味していた。発表では、近年注目を浴びている、アミノ酸の窒素安定同位体比、及び放射性炭素を測定した結果についても合わせて報告する。これらマルチアイソトープにより得られる生態系情報を総合的に解釈し、森林施業が河川生態系へ及ぼす長期的影響について検討する。


日本生態学会