| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-115 (Poster presentation)

直近には飛ばないカシノナガキクイムシの移動分散様式

*山崎理正, 金子隆之, 高柳敦(京大院・農), 安藤信(京大フィールド研)

ブナ科樹木萎凋病(ナラ枯れ)は、病原菌を媒介するカシノナガキクイムシが移動分散することで被害が拡大していく。被害拡大様式の解析からその最大飛翔距離は推定されているものの、どの距離階級にどれくらいの割合が飛翔しているかなど、その移動分散様式は明らかになっていない。本研究では、一集水域内の10年間のナラ枯れ被害拡大様式を解析し、カシノナガキクイムシの移動分散様式を推定することを目的とした。2003年から2014年にかけて、京都大学芦生研究林のモンドリ谷に設置した16haの固定プロットにおいて、304本のミズナラの被害状況を確認した。前年の被害木からのカシノナガキクイムシの分散カーネルが対数正規分布に従うと仮定し、平均と標準偏差を変化させることでピーク位置とばらつき具合の異なる100種類の仮想分散カーネルを準備した。前年被害木からの距離に応じてカシノナガキクイムシの移動分散確率を計算し、どのような分散カーネルを仮定した場合に被害発生確率を予測するモデルのあてはまりがよくなるのかを探索した。

調査地では2004年に初めてナラ枯れ被害が確認され、以後2011年までカシノナガキクイムシの穿孔による枯死がみられた。各年各個体の被害の有無を応答変数とした一般化線形モデルを構築したところ、説明変数の中では胸高直径が最も逸脱度を説明した割合が高く、次に高かったのがカシノナガキクイムシの移動分散確率だった。前年の被害木から300mにピークがあり、比較的ばらつき具合の小さい分散カーネルを仮定した場合が最もモデルのあてはまりがよくなり、直近には飛ばない移動分散様式が示唆された。最適モデルには、胸高直径と移動分散確率以外に周辺10mのミズナラの密度が説明変数として採択され、局所的に集中分布する太いミズナラがカシノナガキクイムシに攻撃されやすいことが明らかとなった。


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