| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-140 (Poster presentation)

トキの抱卵放棄における雌雄の行動の違い:先に音を上げるのはどっち?

*越田智恵子(元・トキ野生復帰ス), 上野裕介(元・新潟大/国総研), 中津弘, 永田尚志(新潟大・CTER), 山岸哲(兵庫県立コウノトリの郷公園)

新潟県佐渡島では2008年からトキの野生復帰事業が行われている。放鳥個体は現在までに何度か繁殖を試み、雛が巣立ちした例も報告されている。しかし、中国の事例に比べ未だ繁殖成功率は高くない。この原因を明らかにするには、親鳥の行動を観察し、繁殖失敗に至るまでの特徴的なパターンを探ることが近道かもしれない。そこで演者らは、放鳥後初めて観察された営巣期(2010年、6ペア、いずれも失敗)の親鳥の詳細な行動観察結果を報告する。観察は、2010年3月から5月の繁殖期に、4ペアの5巣について、数日おきに日の出から日の入りまで行った。

観察したいずれのペアも最終的には雛の孵化に至らず、他のペアも含め2010年にはすべての繁殖が失敗に終わった。そこで、繁殖が失敗に至った過程を巣ごとにより詳しく見ると、4ペアのうち2ペアは抱卵の放棄、1ペアは両親による卵の巣外破棄によって繁殖の中止に至った。残りの1ペアでは、第1クラッチは原因不明で初期に巣が放棄され、第2クラッチはハシブトガラスによって卵が捕食された。抱卵を放棄した2巣については、抱卵日数が増すにつれ、まずメスの抱卵時間が減少し、やがてオスも抱卵を中断するというパターンが見られた。

このように、繁殖の失敗はメスによる抱卵時間の短縮を第一歩として徐々に進行した。オスは巣に残って抱卵を続けようとする傾向があったが、最終的には自らの生存(採餌)のため巣を離れたと考えられる。今後、トキの繁殖成功率を高め、個体群の安定的な維持を図るためには、繁殖期の採餌環境、人や捕食者などの撹乱要因の影響を解明し、メスが巣を離れなくても良い環境を整えていく必要がある。


日本生態学会