| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
シンポジウム S04-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
生態系を“鮮やか”という印象と共に思い浮かべる人は多い.そして,その鮮やかさの一翼を担うオス・メスの違い,すなわち性差が生物群集の中でなぜ進化するのか,を多くの生態学者は探求し続けてきた.その一方で,性差が群集に何をもたらすのかという問いが真剣な検討を受けたことは意外にも少ない. しかしながら,子への投資や資源利用,捕食回避形質などの行動レベルの性差に一定のパターンが存在する場合,それらは増殖率への貢献度や種間相互作用の強さなどの群集スケールの性差を生み出し,結果として食物網のエネルギーフローの改変につながるだろう.すなわち,群集レベルの性差=性構造を明示的に取り入れた生物群集は,無性的な群集とは異なる動態や構造を見せるかもしれない.
以上の問題意識の下,私は群集生態学における大きな問いの一つである食物網の複雑性−安定性関係に性構造が与える影響を調べる一連の研究を行ってきた.それらの結果は,1)有性生物に一般的な,個体群増殖には寄与しないが種間相互作用には関与するオスの存在は食物網の安定性を高める,2)栄養段階が高くなるほど性構造が群集の安定性を高める効果が強まる,ということを示している.本講演では,これらの理論研究を紹介することで実際の生物群集において性が果たす役割について考察し,“性的な群集”を研究することの意義について考えたい.