| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


シンポジウム S04-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

擬態現象から考える多種共存機構:熱帯林におけるアリ類とアリ擬態クモ類の多様性

橋本 佳明(兵県大・自然・環境), 遠藤 知二(神戸女学院・人間), 市岡 孝朗(京大・人環), 兵藤 不二夫(岡大・RCIS), 山\x{fa11} 健史(首都大・理), 坂本 広道(兵県大・環境)

アリ類の多様性がきわめて高い熱帯林では,アリ類に擬態する生物の多様性も高いことが知られている.たとえば,アリ擬態するハエトリグモ科のアリグモ属(Myrmarachne)は日本全土で6種が生息しているが,その5倍を超える種数をボルネオ島の2カ所の熱帯雨林で見つけることができる.これらのクモ類は捕食者から身を守るためにアリに擬態していると考えられ,実際,クモカリバチやカマキリなどでは生得的に「アリ形」を忌避する習性があり,アリ擬態の防衛効果の高さが実験的に確かめられている.

本研究では,アリ擬態現象を熱帯林における多様性創出機構として解明するために,東南アジア熱帯林で同所に出現するアリとアリグモ類の種多様性の関係や,画像解析技術を活用したアリ擬態マッチングの解析,安定同位体を用いた食物連鎖解析,供餌実験等によるアリグモ類の採食生態の調査などをおこなってきた.その結果,同所に出現するアリグモとアリ類の間で種多様性や擬態関係に密接なアソシエーションが見いだされることを明らかにすることができた.さらに,アリ擬態現象がアリグモ種間の「喰い分け」機構や,アリ類とアリグモ共存系で食物連鎖長の伸長をもたらすメカニズムになっていることも分かった.これらのことは,熱帯でのアリ類の高い多様性がアリ擬態現象を介して,アリグモ類の多様性を創出する鋳型となり,さらに,その多様性を維持する多種共存機構や生態系安定化の機構となっていることを示唆している.本講演では,熱帯のフィルドで擬態研究することの苦労話を交えながら,アリ擬態現象が織りなす熱帯の生物多様性創出・維持機構の様相を述べてみたい.


日本生態学会