| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


シンポジウム S05-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

森林の栄養動態に及ぼす火山砕屑物の影響

北山兼弘(京大・農)

日本の森林植生の分布や一次生産などの機能は、主に温度や降水量によって規定されていると考えられてきた。一般的に、土壌風化が安定的に進行すると、地球化学的な反応により一次鉱物起源のリンの可給性が低下し、やがては生態系の素過程を規程すると言われている。なぜ、日本では、このような土壌風化に起因するリン欠乏(あるいは他の元素の欠乏)が森林植生の説明要因として取り上げられないのだろうか?近年の土壌学の研究から、日本の褐色森林土には広域に渡り、程度の違いこそあれ火山灰が付加し、表層の炭素蓄積に影響を与えていることが指摘されている。火山灰土壌の特徴の1つとして、リン酸吸着性が極めて高いことが挙げられる。火山灰土壌の農地では施肥したリンが強く土壌に吸着することから、火山灰はリン可給性にマイナスに作用すると考えられることが多い。しかし、自然生態系においては、火山灰はリンのソースとして機能し、火山灰付加により森林生態系には貴重なリン資源が供給されているのではないだろうか。世界各地の火山灰土壌では、一次鉱物であるリン酸カルシウムとアロフェンにより安定化した有機態リンの2つの形態で多くのリンが存在していることが知られ、これらが溶解あるいは分解作用を受けて樹木に渡る経路が卓越している。従って、火山灰の影響を受けた日本の森林土壌でも、同様のプロセスが想定できる。実際私たちの研究から、火山灰の影響を受けた日本の一部の地域では、土壌と樹木生葉のリンの濃度が高く、さらに森林のリン利用効率は低下する、ことが示されている。この発表では、日本に加え、ハワイやマレーシアなどさまざまな森林生態系における土壌リンと森林のリン利用効率のデータを示し、火山灰の森林生態系維持効果について考察する。


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