| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
シンポジウム S11-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
昆虫類では非生物・生物環境に対して様々な認識能力が発達しており、それらから発せられる刺激を視覚、聴覚、臭覚等によって受容、その情報を処理し、行動に転換する。特にコロニー生活を営み、高度な分業制をもつ社会性昆虫ではそうした認識能力はより重要な意味を持つ。コロニーの維持には同巣メンバー間の識別やコミュニケーションが、さらに社会性進化の基盤である血縁者同士の利他的協力には個体間の血縁認識能力が必要である。こうした個体の生理的情報や遺伝的情報を様々な刺激で受容、獲得し、それを個体間で共有することによって社会集団とコロニーが維持されている。アリ類にみられる多様な社会寄生行動はこうした認識能力とその機構を探るのに適した現象である。中でも永続的社会寄生では、女王は労働カーストであるワーカーを生産せず、他種のコロニーに侵入してホストの女王と共存しながら、繁殖虫卵を生産し、ホストワーカーにその養育を依存する。これらの寄生種では女王を巣仲間や繁殖個体として、また卵やブルードも養育対象としてホストに認識させる欺瞞的性質が発達しており、それらは本来の認識機構を利用している。一般にアリの認識機構では化学物質の認識による要素が大きいが、寄生種にもこの化学的認識機構を利用した欺𥈞性質があり、化学的擬態、ホストからの認識物質獲得、認識物質欠失によるステルス効果などが知られている。さらに社会寄生では外部形態にも擬態的特徴があることが報告されており、これまで注目が低かったものの、視覚的認識や触覚的認識もまた重要であることが示唆される。本発表ではこうした研究例を紹介し、新たな観点からアリの認識機構についての議論、考察を行う。