| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


シンポジウム S11-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

アゲハチョウの視覚能力 ー色・明るさ・偏光ー

木下充代(総研大)

アゲハチョウ(以後アゲハ)が風に揺れる花を次々と訪問しながら蜜を飲んでいく様子は、彼らが優れた視覚を持つことを人に想像させる。赤い円板の上で蜜を与えられたアゲハは、蜜がなくても赤円板に降りて蜜を探すようになる。このようになったアゲハは、赤円板を他の色からも、様々な明るさの灰色からもよく見分ける。このことは、アゲハが赤円板をいわゆる“色覚”によって見分けることを示している。このアゲハの色覚では、照明光の変化によって物体から目に届く反射光のスペクトルが変わっても色の見え方が維持される「色の恒常性」や色の見え方が背景の色によって変わる「色対比」現象も見つかっている。

物体の認知では、色の他に明るさ知覚も重要である。暗い赤で蜜を与えたアゲハに、明るさが異なるオレンジを提示するとより暗いものを選ぶ。さらに、同じ明るさのオレンジを異なる明るさの灰色背景上に置くと、明るい背景上のオレンジを選ぶので、明るい背景によってその上にある物体が暗く見えたことがわかる。以上は、アゲハが相対的な明るさの違いを学習できること、「明度対比」現象も持つことを示している。

眼に届く光には色・明るさに加えて、偏光情報が含まれる。このヒトには見分けられない偏光振動面の違いを、アゲハは見分けられる。アゲハは、地面に垂直に振動する縦偏光を、水平に振動する横偏光より好む。この偏光の好みは、物体そのものと背景の明るさの影響を強く受けるので、アゲハには偏光振動面の違いが明るさの違いとして見えるようである。

以上の様々な視覚能力は、どのようにアゲハの訪花行動に関わるか?一般に複眼を持つ昆虫の視覚は、空間分解能が低いとされている。アゲハの優れた色・明るさ・偏光弁別能力は、低い空間分解能を補っているに違いない。その結果、アゲハは特定の花を選んで確実に着地できるのだろう。


日本生態学会