| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


シンポジウム S12-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

洞爺湖中島における数十年スケールでの土壌侵食量推定

五味高志(東京農工大・農)

本研究は、エゾシカ(Cervus nippon yesoensis :以下、シカ)の食害による林床植生の消失とそれに伴う土壌侵食および土壌栄養塩蓄積量を評価するために、北海道中島と洞爺湖外輪斜面における土壌サンプル採取を行った。また、ニホンシカ(Cervus nippon :以下、シカ)の食害の影響を受ける丹沢山地の大洞沢の試験流域における植生保護策設置前の植生分布、土壌侵食量、土壌炭素と窒素蓄積量を評価した。シカの食害による植生量の衰退による数十年スケールでの土壌侵食量の指標として、137Csや210Pbexなどの放射性核種の蓄積量による評価が有効であるが、洞爺湖周辺ではこれまでの有珠山の火山活動などにより火山灰降下などがあることから、手法の適用性について検討した。丹沢山地大洞沢流域では、2010年に流域内50箇所で採取したサンプルを分析した。2010年に採取していることから、2011年の福島原発事項による放射性核種の降下による影響は受けていない。6段階の植生被覆指標で流域を内の被覆を分類した結果、尾根部では主に不嗜好性種などの植生量が多く、渓流周辺部では裸地が分布していた。地表の植生被覆量が、100g m-2程度以上では雨滴による土壌侵食を受けにくくなる傾向が見られた。裸地斜面における植生被覆と137Csと210Pbex分布傾向は調和的であった。とくに斜面傾斜が30~45度の箇所では土壌中の137Cs濃度が低く、土壌侵食の影響を受けていた。土壌中の窒素および炭素量ともに土壌137Cs蓄積量との有意な相関が認められることから、植生状態と土壌侵食量が栄養塩蓄積量に影響を及ぼしていることが予想された。シカの個体数変動プロセスは、林床植生、土壌侵食、土壌栄養塩蓄積の流れの中で、森林生態系の基礎生産へ影響を及ぼすことが考えられ、今後、広義の視点での過採食の生態学的意義を検討する上でも重要であると示唆された。


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