| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T01-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

沿岸域調査で検出された東日本大震災による突発的な変化

横井謙一(日本国際湿地保全連合)

モニタリングサイト1000沿岸域調査は2008年から開始され,磯,アマモ場,藻場では各6サイト,干潟では8サイトで実施されている。調査は年1回,同時期に実施することを基本とし,磯では主に固着性底生生物の種組成や現存量,干潟では干潟表面や底土中に生息する底生動物の種組成や個体数,アマモ場では海草類及び底生動物の種組成や現存量,藻場では海藻類の種組成や被度を調べている。

2012年には各生態系やサイトの現状を把握するため5年間の調査結果がとりまとめられた。生態系毎に種の多様性や生物群集の類似性を評価した結果,沿岸域調査のサイトは各地域の生物相の特徴を捉えるモニタリングサイトとして有効な配置になっていることが示された。

全国に配置されたサイトの内,松川浦(干潟),大槌(アマモ場),志津川(藻場)の3サイトは,2011年3月の東日本大震災の際に発生した津波で甚大な被害を受けた地域に近接している。これらのサイトでは,津波が各サイトに及ぼした影響やその後の回復過程を定量的に評価することが可能である。松川浦では震災後の2011年に底生動物の種数や個体数が大幅に減少したが,2012年には種数は震災前と同程度まで回復した。一方個体数は依然として少ない状態が続いているが徐々に回復しつつある。大槌では津波で調査サイトのアマモ場が消失した。2012年以降は水深の浅い地点でアマモの生育が認められたが,多くの地点で植生の回復は確認されていない。志津川では津波による藻場の消失は確認されず,2011年の大型海藻の被度は震災前と同程度の値を示した。しかしその後は継時的に大型海藻の被度が減少し,2014年に調査地点の藻場が消失した。以上のように,長期モニタリングで得られるデータは予測不可能な大規模撹乱の影響や回復過程の評価に利用でき,また被災地における新たな調査等にも活用されている。


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