| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T05-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

実験的・理論的見地からみる評価・解釈の二重性を伴う群れ

新里高行(筑波大・システム情報系)

動物の群れを数理的または実験的に明らかにしようという機運が高まってきて久しい.最近では,Couzinらに代表されるような集団の意思決定のプロセスや,Mwaffoらに代表されるような実験値より推定されるパラメータによるdata-drivenな予測モデルなどがある.これらの研究は,各個体の相互作用を正確に規定することが,群れの示す大域的な現象を説明するために不可避なものであると考えている.bottom up式の手法を用いたこれらの研究は,今までのモデルで仮定されてきたalignmentルールなどに異議を唱えており,一定の成果をあげているといってよい.

ところが,群れの中で起こっている情報過程を捉えようとするとき,そのようなbottom-up式の手法には限界がある.というのも,群れの中において,外部刺激の伝達=情報は,一般に相互作用速度より,はるかに早い速度で行われるものであるとわかっているからである.例えば,Attanasiらの 2014年のムクドリについての論文では,400匹のムクドリは外的な刺激を0.5から0.7秒以内に伝達していることを明らかにし,相互作用における量子論的な効果を明らかにした.これは明らかに,各個体の所有するすべての情報をすべて統合しているのでは間に合わない.すると,各個体は不完全な情報をもとに角度や速度を調整しなくてはならないことになる.

そこで,我々は群れの中の個体が用いる不完全な情報をもとにした相互作用が,群れ内部の情報過程を説明するのに非常に重要な役割を果たすことを明らかにする.具体的には,我々が以前から提唱しているMTIモデルをもとに,現実の動物の群れが示す現象をうまく説明できることを明らかにする.また,並行して,アユの稚魚を用いた実験についてのべ,不完全な情報過程と群れ全体の運動との関係がいかなるものであるのかを明らかにする.


日本生態学会