| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T06-7 (Lecture in Symposium/Workshop)

都市の生物多様性保全政策の現状と今後の方向性

*曽根直幸 ,上野裕介,栗原正夫(国総研)

現在、日本の都市生態系(社会-生態システム)は大きな転換点を迎えている。世界的に都市人口が急増する中、日本では人口減少と都市の縮退が予想され、政策的にも都市の再編・再整備とコンパクトシティを目指す動きが主流となりつつある。この機に、都市の生物多様性保全政策についても社会-生態システムの視点から捉え直し、都市生態学に係る知見を反映していくことが重要だろう。

拡大成長時代の都市の生物多様性保全政策では、都市に残る貴重な生物の生息・生育地としての緑地の保全・創出に重点が置かれてきた。例えば公共事業での公園整備や土地利用規制による樹林地保全などの個別施策、地方自治体が策定するマスタープランである緑の基本計画を活用したエコロジカルネットワークの形成が推奨されてきた。また近年は、2010年にCOP10の決議で推奨された都市の生物多様性指標(シンガポール指標)も導入し、定量的な評価が試みられつつある。

一方、演者らが全国各地の緑の基本計画を生物多様性保全策の観点から整理した結果、地域の生物多様性に関する情報不足(調査研究とその成果に基づく評価・分析の不足)や、計画の実効性を高めるのに必要な都市域の生態学的知見の不足が明らかとなった。

また演者らが都市域の生物多様性のパターンを明らかにするために、東京都心部から郊外の緑地(60箇所)で複数分類群(鳥類、飛翔性/徘徊性昆虫類、植物)を対象に行った調査では、緑地の規模や質に加え、対象生物種の移動能力の違いにより都市化の影響が異なること、特に移動能力の小さい分類群では孤立からの時間経過の影響(絶滅の負債extinction debt)が生じていることなどが示唆された。

本講演では、これらの結果を紹介し、環境的側面に加え、社会・経済的側面での貢献もふまえた都市の生物多様性保全政策について議論したい。


日本生態学会