| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T13-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

昆虫−細菌共生系の理解が切り拓く害虫制御の新たな地平

菊池義智(産総研・生物プロセス)

微生物との共生は“新規代謝系の獲得”と捉えることができ、ときに宿主の性質を劇的に変える。これまでに500種を越える害虫において農薬抵抗性が報告され世界中で大きな問題となっているが、最近我々は作物害虫であるカメムシ類が細菌と共生することで農薬抵抗性になるという、全く新しい農薬抵抗性進化機構を発見した。ダイズの害虫であるホソヘリカメムシ(Riptortus pedestris)は環境土壌中から共生細菌(Burkholderia sp.)を取り込んで消化管に発達した袋状の組織(盲嚢)に共生させる。これまでの研究により、(1)農耕地土壌には有機リン系殺虫剤であるフェニトロチオン(MEP)を分解できる共生細菌株が存在すること、(2)このMEP分解株はホソヘリカメムシに取り込まれ盲嚢内に定着すること、そして(3)MEP分解株が共生したカメムシはMEP抵抗性を獲得することが明らかとなってきた。さらに興味深いことに、分解菌の多くはMEPを炭素源(つまり餌)として利用可能なことから、畑にMEPを散布すると土壌中の分解菌が増殖し、これに伴って分解菌に感染するカメムシが増加することが明らかとなってきた。これは、土壌中の微生物群集動態が害虫の農薬抵抗性獲得に大きく影響しうることを示している。従来から害虫の農薬抵抗性は虫自身の性質と考えられており、当然のごとく害虫の個体群動態を主眼にその防除や対策が行われてきた。しかし、農薬抵抗性に限らず農耕地にみられる様々な害虫問題の裏には、実はそこに暮らす微生物の営みがあり、それら諸問題の解決のためには微生物群集を理解し彼らを手なずける必要があるのかもしれない。本発表では、害虫制御と土壌微生物生態学の接点について、ホソヘリカメムシを例に紹介し議論したい。


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