| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T14-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

温暖化による沿岸生態系への影響予測:藻場・サンゴ群集の分布域縮小と拡大

熊谷直喜 (国環研・生物セ),髙尾信太郎,藤井賢彦,山中康裕 (北大院・地球環境),屋良由美子,山野博哉 (国環研・生物セ)

国内温帯域の沿岸域生態系では温暖化影響が急速に生じている。海藻藻場の著しい衰退・分布縮小や、南方性海藻と造礁性サンゴの増加・分布拡大が起こっており、演者らはこれらの生態系変化の検出・予測に取り組んでいる。

初めに年代別の生息分布情報を収集・整理し、分布変化の検出、適水温などの生息環境の抽出を行った。将来予測はまず、主要な温帯性海藻の生息水温の閾値を用いたモデルで行った。このアプローチは閾値を境界に生息適・不適を単純化する反面、生態学的プロセスを柔軟に組み込める利点がある。そこで、生理的な生息水温と植食者の摂食水温に基づく温暖化の複合的影響を予測した(Takao et al. 2015 Ecol. Evol.)。予測水温には17のCMIP5気候モデルおよび4つの温暖化シナリオ(RCP2.6、4.5、6.0、8.5)に基づく将来予測結果を用いた。その結果、いずれの温暖化シナリオにおいても海藻の分布が北上・縮小したが、シナリオによって分布縮小のプロセスは異なった。

次に、優占する温帯性・南方性の海藻5種とサンゴ4種について、水温など9環境要因と7手法の統計モデル・マシンラーニングを用い分布確率の推定を行った。その結果、南方性海藻やサンゴの生息適地面積は、紀伊半島以南では既に温帯性海藻と同程度であることがわかった。また、生息適性には水温以外にも水質や地形など地域的要因も重要であることが分かり、好適な条件の地域を保全するなど温暖化緩和・適応策の手掛かりになりうるだろう。本研究で得られた推定モデルに海水温の将来予測値を外挿することで分布変化の将来予測は可能だが、両者の解像度が大きく異なる(0.01°と1°)などの課題がある。


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