| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T17-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

南西諸島における陸鳥類の遺伝的分岐

西海功(国立科学博物館)

南西諸島には鳥の固有種が5種または6種いる。沖縄島以北で繁殖するアカヒゲ、沖縄島のヤンバルクイナとノグチゲラ、奄美諸島のアマミヤマシギとルリカケス、種か亜種かで意見が分かれる奄美諸島のトラツグミである。これは鳥の固有種が日本列島全体でも10種程度しかいないことを考えると、その半数にもなり、南西諸島の鳥類集団の隔離の強さを物語る。これらの南西諸島の固有種が、遺存固有か隔離固有かは古くから議論されてきたが、最新の分子系統地理学的諸研究を加味しても未だ完全な決着を見ていない。しかし、もう一つの視点としてこれらの固有種が新たな種を生み出してきた可能性についてDNAバーコーディングの結果から検討したい。例えば、アマミヤマシギがユーラシアに広く分布するヤマシギの祖先種である可能性やノグチゲラがオオアカゲラの祖先種である可能性などがある。もしそうであるなら南西諸島が大陸への鳥の種の供給地として、大陸の鳥類の種多様性増大に大きく貢献してきた可能性がある。

また、DNAバーコーディングはこの地域に隔離されたmtDNA系統群が固有種以外にも6つあることを示しており、これらは将来的に独立種としてみなされて、固有種が倍増する可能性がある。生物地理学的境界としては、従来、渡瀬線と蜂須賀線が提唱されてきた。トカラ海峡にあたる渡瀬線は、両生爬虫類や哺乳類にとっての大きな分布障壁とされてきた。他方、鳥にとっては、トカラ海峡は南西諸島の中で最も深い海で隔てられているが、距離が短いため分散の障壁にはならず、距離の長い蜂須賀線(八重山諸島と沖縄島を隔てる)が境界となると考えられてきた。しかし、鳥類の分子系統地理の研究からは、南西諸島にはっきりとした生物地理学的境界を引くことは難しいといえそうである。


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