| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T19-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

生物多様性保全と地域社会の相乗便益の可能性 -ミャンマー農山村地域を例に-

竹田晋也 (京都大学 ASAFAS)

ミャンマーのバゴー山地カレン領域内の村落で、2002年から焼畑土地利用のモニタリングを続けている。本報告では、この調査村とバゴー山地を題材として、森林保全と地域住民のかかわりを歴史軸の中で辿りながら、この地域における「相乗便益の可能性」について検討したい。19世紀半ばに植民地政府による森林経営が始まったバゴー山地では、保続的な林業確立のための技術と制度の体系化が進められ、国有林が指定されていった。その過程で焼畑規制と焼畑民の定住化を目指した「カレン領域」が設けられ、カレン焼畑民の森林利用と政府森林局の林業経営との間には、妥協が生み出す補完的な関係が築かれてきた。

「生物多様性保全」と「地域住民の生活向上」の関係が二律背反ではなく相乗的な関係となる条件として、まず生物多様性保全がもらす便益の内部化が考えられる。非木材林産物の商品生産やエコツーリズムなど、多様性そのものを活かしてゆく方策である。一方で、都市化と経済発展によって地域住民の森林依存度が減少に転じれば「生物多様性保全」のための森林保護と「地域住民の生活向上」との関係は二律背反ではなくなる。このふたつは、森林推移仮説での「森林稀少化経路」と「経済発展経路」に関連付けることが可能であるが、同仮説では生物多様性といった森林の質的側面は捨象されている。例えば「自然環境への人為の働きかけが減少した結果、里地里山の生物多様性の質・量の両面からの劣化が進行する」日本の事例(生物多様性国家戦略2012-2020)のような撹乱を受けた二次的自然は、十分に位置づけられていない。バゴー山地でも、伐採・焼畑・野火といった撹乱を受けた二次林の産物利用の重要性は看過されてきた。調査村の事例からふたつの経路に対比した「生物多様性保全相乗便益」経路の可能性を考えたい。


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