| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第62回大会(2014年3月,鹿児島) 講演要旨 |
日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞記念講演 3
植物の大きな特徴の一つとして、光合成を行い、独立生活を営むことが挙げられる。その一方で植物の中にも、光合成をやめて、菌類や他の植物に寄生して一方的に栄養を搾取するもの、すなわち従属栄養植物が存在する。多くの場合、従属栄養植物は緑葉を持たず、その奇妙な形態が人々の関心を集めてきた。しかし研究のほとんどは、宿主の同定にとどまっているのが現状である。
この従属栄養植物の進化を理解するためには、宿主との相互作用のみならず、生活史全般においてどのような適応を遂げているかを知る必要がある。例えば、大半の従属栄養植物は虫媒の独立栄養植物を起源としている。にもかかわらず従属栄養植物の生育場所は薄暗い林床であり、ハナバチなどの訪花性昆虫のにぎわいとは無縁の世界である。つまり従属栄養植物は、薄暗い林床で受粉を達成しなければならない。そこで従属栄養植物の送粉様式を調査したところ、昆虫に受粉を頼らない自動自家受粉を採用しているものや、通常は主要な送粉者にならないショウジョウバエなどの薄暗い環境に生息する昆虫に送粉を託すものが発見された。
さらに従属栄養植物は種子散布の面でも適応を遂げていることが明らかになりつつある。従属栄養植物の種子は、その寄生性から胚乳などの養分を持たず、非常に小さい。そのため従属栄養植物は総じて風散布を採用しており、従属栄養性の獲得と風による種子散布の間には関連があると考えられてきた。しかし従属栄養植物が生育する暗い林床は、風通しが悪く障害物も多いため風散布の効率が著しく悪い。このため一部の従属栄養植物は、極端な暗所に進出することで、再度風散布を喪失し、カマドウマを種子散布者としていることが明らかになった。これまで直翅目による種子散布は、ニュージーランドにおけるwetaによる例しか知られておらず、世界でも2例目の発見である。
以上のように、従属栄養植物はその特異な性質を獲得・維持するために、宿主はもちろん、送粉者をはじめとする様々な生物との相互関係においても実に多彩な適応を遂げている。本講演では演者自身が発見した特殊な受粉様式や種子散布様式などを例に挙げながら、従属栄養植物が光合成をやめる過程で、他の生物との共生関係をいかに変化させてきたのかを紹介したい。