| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) D2-01 (Oral presentation)

花は訪花者に正直であるべきか? 花蜜の有無を示すシグナルの進化動態

*伊藤公一(九大・理),鈴木美季(筑波大・生命環境),望月昂(京大・生態研セ)

送粉者は花形質と報酬の有無を関連付けて学習することが知られている。このため、他者が報酬を生産していれば、送粉者がその花形質を報酬がある花と学習するため、自身が報酬を生産していなくても十分な送粉を受けられる場合がある。実際、いくつかの植物種では、こうした報酬を生産しない個体が報酬を生産する個体と共存している例が知られている。ところが、一部の植物では、報酬の有無に応じて色や匂いなどの花形質を変化させることが知られている。例えば、スイカズラ科のいくつかの種では、報酬の生産をやめると同時に花の色を変化させる、花色変化と呼ばれる現象が報告されている。また、花蜜に匂いや色を付けている植物では、蜜の有無によって花の見た目や匂いが変わることが知られている。こうした報酬と連動した花形質の変化は、報酬の有無を送粉者に対して「正直」に知らせるシグナルとなりうるため、一見不利な戦略に見える。

そこで本研究では、送粉者への報酬と連動した花形質変化を、ゲーム理論的な視点からとらえることで、その進化的背景を考えた。花植物の報酬の生産時間と、報酬の有無を伝える花形質の両方が同時に進化するような状況を考え、その進化的な安定状態を調べることで、報酬の有無についての正直なシグナルを送るような戦略が進化する条件を解析した。

結果、訪花者の花形質と花位置の学習能力にばらつきがある場合には、正直に報酬の有無を知らせるシグナルが進化しうることが分かった。本研究の結果は、報酬の在不在を送粉者に知らせるべきか否かについて、一般的な進化傾向を示したものであり、様々な動物媒植物の花形質の進化に適応可能なものである。


日本生態学会