| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) F1-06 (Oral presentation)

亜高山帯針葉樹シラビソで冬季にみられるの枝木部の通水阻害は枝齢に依存する

大條弘貴,大塚晃弘,*種子田春彦(東京大・理),小笠真由美,矢崎健一(森林総研),丸田恵美子(東京農大・理)

植物が体内の安定した水移動を維持するためには、水の流れの上流にあたる幹や基部側にある枝ほどエンボリズム(道管や仮道管の内腔を空気が塞いで水の移動を妨げる現象)に対して高い抵抗性を持つ必要がある。この考え方はvulnerability segmentationと呼ばれ、木部液の凍結と融解の繰り返しで引き起こされるエンボリズムでこの概念が成り立つかはわかっていない。凍結融解によるエンボリズムは、道管や仮道管の直径が太い茎ほど深刻に起きるといわれている。これに対して、道管や仮道管の直径は基部の古い枝ほど大きくなる。もし管の直径だけでエンボリズムへの抵抗性が決まっていれば、凍結融解によるエンボリズムは基部の枝で強く起こり、vulnerability segmentationは成り立たないことになる。そこで、私たちは、北八ヶ岳の標高2200m付近の風衝地に生えるシラビソ(Abies veitchii)の1年生、3年生、5年生の枝で通水阻害率(木部で染色液が流れない領域の面積の割合)を測定した。1年生の枝では、冬季に通水阻害率が増加して2月に50%を示した。一方で、3年生と5年生の枝では季節変化がなく、とくに当年生の年輪では、冬でも通水阻害が起きていなかった。また、-1.9 MPaの張力をかけた枝を凍結(-12°C)と融解(10°C)を10回繰り返す処理に曝すと、1年生の枝の通水阻害率が約50%であったのに対して、3年生枝や5年生枝では、0 から10%にとどまった。これらの結果は凍結融解によるエンボリズムに対しても、hydraulic segmentationの概念が適用できることを示している。同時に、木部形態の観察から、凍結融解によるエンボリズムへの抵抗性が仮道管直径からだけで説明できないことも示唆された。


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