| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) F3-42 (Oral presentation)

シロアリの交雑と腸内共生原生生物群集の進化

北出 理(茨城大・理)

群集の分断後の変化に比べ、生物群集が融合した後の変化を扱った研究は少ない。シロアリ消化管内の共生原生生物群集でも、宿主系統と群集組成との対応の解析がおこなわれてきたが、共種分化を反映して概ね宿主系統と原生生物の組成とは対応する。しかし同時に、異なる宿主系統間での群集の融合も現在の群集組成の一部に強い影響を与えた可能性がある。

異なる共生原生生物群集の融合をもたらす要因に、異種宿主の交雑がある。私達の研究室では、種特異的な原生生物組成を持つヤマトシロアリとカンモンシロアリの2種の有翅生殖虫を交雑させ、雑種コロニーを作成する自然群集を用いた実験を行い、原生生物群集の変化を観察した。2種の宿主を交雑させると、当初生殖虫間で原生生物が混合され、子へ受け継がれて「混合型」組成を持っていたが、時間と共に殆どのコロニーは「ヤマト型」の組成へと収束するが、1コロニーは「カンモン型」組成に収束した。このとき共生生物種の群集構造も親種のものと非常に近くなった。さらにヤマトとカンモンの交雑コロニーに対し、共生原生生物のSSUrDNAの部分配列を網羅的に読み取ったところ、両宿主種が共有する原生生物種も、雑種コロニーはわずかな例外を除きヤマトシロアリ側から受け継いでいることがわかった。

交雑させた多くのケースで、共生原生生物組成が一方の親種の群集組成にほぼ完全に収束する、という顕著な偏りがみられた。共生原生生物は長期間の競争や共適応を経ており、この結果は種間競争を経験したモデル群集で片方の親群集への偏りが生じやすいという、シミュレーションと再現実験による先行研究の結果と整合する。シロアリの共生原生生物群集の組成は、宿主と共生者の共種分化だけでなく、まれな事象としての群集の融合と置換により進化してきたと考えられる。


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