| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) G3-25 (Oral presentation)

食肉類における咀嚼筋形態を用いた 比較機能形態学的検討

*伊藤海1,2, 遠藤秀紀1,2(1東大・院農,2東大総合研究博物館)

哺乳類の咀嚼は餌から効率よくエネルギーを抽出する重要な運動である。そのため、歯や顎関節といった咀嚼に関与する形態は多様化していることが知られている。しかし、咀嚼運動の動力となるのは咀嚼筋であるため、咀嚼筋の解析は必要不可欠である。咀嚼筋は側頭筋、咬筋、内側翼突筋、外側翼突筋から構成され、咬筋は収縮方向の異なる浅層、中層、深層の3層に分かれている。哺乳類はこれらの筋肉を収縮させることで、顎を三次元的に動かし、咀嚼機能を果たしている。咀嚼筋解析は、哺乳類の形態学的な多様化のメカニズムの解明につながると考えられる。哺乳類のなかでもネコ、イタチ、クマなどが属する食肉類は、様々な環境に進出し、生態学的適応を遂げている。そこで本研究では、食肉類各系統における、咀嚼筋の機能形態学的戦略を明らかにすることを目的とし解析を行った。

筋肉の生理学的断面積(PCSA)は筋の収縮力と相関することが知られている。そのため、食肉類8科24属28種おける各咀嚼筋を定量的に比較するために、PCSA値を計測した。

その結果、各咀嚼筋のPCSA値は、系統に関わらず体サイズに相関して大きくなるという、多様化した食肉類における一般性が観察された。また、ネコ科では咬筋浅層のPCSA値が、イタチ科では側頭筋のPCSA値が、他の系統と比較して大きいことが確認された。ネコ科では、外側方向に下顎をスライドさせる咬筋浅層を用いて、発達した裂肉歯を擦り合わせて咀嚼をしていることが示唆された。また、イタチ科は下顎頭が関節窩に嵌り込んだ強固な顎関節をもつ。そのため、側頭筋の背側方向に引き上げる力が強い場合でも、脱臼することなく咀嚼ができると示唆された。これらの科における大きいPCSA値を示した筋肉は、歯や顎関節といった咀嚼形態の動力に適した筋肉であることが示唆された。


日本生態学会