| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) H2-14 (Oral presentation)

左巻きは右利きヘビを威嚇する

*浅見崇比呂(信州大), Patchara Danaisawadi, Chirasak Sutcharit, Somsak Panha(Chulalongkorn Univ)

カタツムリ専食のセダカヘビ類は、餌資源に多い右巻の軟体部を殻から引き抜いて食べる捕食に特化している。左巻のカタツムリは食われにくいため、セダカヘビの分布域では、左右逆に発生する左巻変異に集団が固定して左巻種となる適応種分化がくり返し生じた。左右反転による餌の対抗進化に対し、食う側は進化的応答をしているだろうか。この問題に答える研究を行った。セダカヘビ類は東南アジアのほぼ全域に分布する。樹上性のトガリセダカヘビPareas carinatusは、東南アジアの中心部に広く生息し、多くの左巻カタツムリと同一空間に共存している。捕食実験により、トガリセダカヘビは、右巻よりも捕食にコストのかかる大きな左巻を見分け、捕食行動を回避することを発見した。このヘビは、捕食行動をとるかぎり、右巻とは左右逆の作法で左巻をくわえ、捕食に失敗しない。従来の予測に反し、左巻の殻はシェルターにはならないことがわかった。だが、左巻の捕食効率は著しく低かった。一方、セダカヘビ類の分布周縁で左巻に出会う機会がほとんどないイワサキセダカヘビは、巻き方向にかかわらず同一の捕食行動をとり、左巻の捕食に頻繁に失敗する。右型か左型かに応じ、捕食するか否かを意思決定し、どのように瞬時にくわえるかを変更する行為は、左巻と出会わない環境では意味がない。すなわち、トガリセダカヘビによる左巻の識別は、餌資源に左巻が多い環境ならではの進化的応答であると考えられる。捕食者による餌の左右極性の識別は、捕食効率を上げる点で捕食者に有利なだけではなく、天敵から攻撃されずに逃れることができる点で、左巻変異にとっても有利である。左巻の獲得した威嚇機能は、右巻集団から左巻種への単一遺伝子による生態種分化を促進すると考えられる。


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