| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-08 (Oral presentation)

照葉樹林帯におけるカタクリ個体群の動態

中西 正(愛知県環境審議会専門調査員)

照葉樹林帯に属する愛知県豊橋市にもカタクリ群落が見られる。このうち岩崎町の個体群に注目した。2006年に、そこに見られた16個体が含まれるように2m×3mのコドラートを設置し、毎年出現する個体の位置と大きさ(葉長と葉幅)及び花の有無を記録した。これらの分布は均一ではなく、いくつかのまとまり(小個体群)が見られた。2015年には151個体がこのコドラートを超えて分布していたが、小個体群によって成長したもの、変化がなかったもの、消えたものなどが観察された。この中には2006年当時から追跡してきた14個体も含まれており、10年後の生存率は87.5%であった。

2006年に見られた16個体では5個体が有花個体であったが、2015年の14個体では12個体が有花で、どの個体も右上がりの生長をしていた。生長を見るにあたっては葉長、葉幅のいずれを使っても可能であるが、葉面積(葉長×葉幅)を使うことによって有花個体の存在が一層明らかになった。出現個体の葉面積の分布では有花個体が無花個体よりも大きく表された。葉が大きくなることによって無花から有花になると考えられるが、その線引きは確かなものでなく、小さなものでは50㎠で開花したものもあった。また、3葉の有花個体では300㎠あった。2006年の有花個体の葉面積の平均は79.6㎠であったが2015年では155.8㎠と約2倍になっていた。10年間の平均では129.7㎠であった。

個体群中の有花個体数は徐々に増加していたが、個体群内での割合は低下していた。これは個体数の増加のためで、その増加は2011,2012年頃から顕著になっていた。この変化には実生個体の増加が大きく関係しており、2015年では特に多かった。実生個体が有花個体にまで育つには2006年からの個体の追跡調査、および生長段階の分布から9年前後かかることが予測された。


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