| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) J3-24 (Oral presentation)

双方向性転換における時間非対称性の解明:ホルモンー酵素動態によるアプローチ

山口幸(神奈川大・工)

多くの魚類では、性転換現象が知られる。性転換タイミングや性転換方向は、各個体がプレイヤーでその年に繁殖する場合の性を選ぶとするゲームにより説明され、サイズ有利性モデルとよばれる。実際には性転換は瞬時に生じるものではなく、数日から数十日かかる。また性転換方向によって、時間のかかり方が異なる。これは最終均衡状態だけを考えるゲームモデルでは答えることができない。本講演では、性を制御するホルモンの動態を考慮して、この問いに答える。

雄から雌への時間を雌から雄への時間で割ったものを性転換時間比と定義する。性転換時間比が1程度になるパラメータセットを基準として、各パラメータの範囲を設定すると、時間比は0.5-1.5程度になる。ここでパラメータの値が、適応進化によって個体にとって有利な値に選ばれているとする。性転換に日数がかかると、その状況での望ましい性が採れない日が続き、適応度の損失を生じる。雄としての繁殖機能開始遅れ、雌としての繁殖機能開始遅れ、酵素アロマターゼ分解速度を促進するのにかかるコスト、の和を最小にすると考える。

配偶システムによって、雄と雌それぞれの機能開始遅れの重要さは異なるはずである。一夫多妻やハレム型では、雄は多数の雌の産む卵を独占的に授精するので雄としての機能開始遅れがより重要になるだろう。だからアロマターゼの分解速度を上昇させて、雄への性転換時間を早めた結果、性転換時間比が1より大きくなる。一方で、ハレムにいる雌の数が少ない、あるいは一夫一妻の場合、アロマターゼの分解速度は速くならず、性転換時間比も1程度になり、雌と雄の機能開始遅れの重要さに大きな違いがない。以上の議論は、サイズ有利性モデルのような至近要因を考慮しない既存の進化生態学モデルではできなかった予測である。


日本生態学会