| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) J3-25 (Oral presentation)

共生シグナルの複雑さと特異性の進化

内海邑(総研大・先導), *佐々木顕(総研大・先導)

環境中から共生相手を獲得する場合、多くの共生系では複雑なシグナルによって共生相手を選別し宿主と共生者の高い特異性を実現している。例としてマメと根粒菌の共生における Nod 因子がある。根粒菌の分泌する Nod 因子は根粒菌の系統ごとに多様性があり、マメは特定の Nod 因子のみを受容することでその Nod 因子に対応する根粒菌と特異的に共生を開始する。

しかし、複雑なシグナルによって共生相手を限定してしまうと、共生可能な相手が減少し共生相手を獲得できない場合が増えてしまうはずである。それにも関わらず共生相手を限定しているのは、宿主にとって望ましい形質をもつ共生相手を複雑なシグナルによって選別して(あるいは寄生的な共生相手を排除して)共生によって得られる利益を大きくする方向に進化が起こったからだと考えられる。

そこで宿主と共生者のシグナルの共進化を理論的に調べた。モデルでは以下を仮定した:(1)不足する栄養(栄養要求)の異なる数種の宿主を固定する.一方、共生によって宿主に提供する栄養比の異なる様々な共生者が突然変異で生じ得るとした。(2)宿主の栄養要求と共生者の栄養供給との差が少ないほど、両者が共生によって受ける利益は大きい。(3)宿主と共生者のシグナルは01の配列(ビット列:Nod 因子の官能基の組み合わせなどに対応する)で表現され、ランダムに出会った宿主と共生者はシグナルのビット列の一致が多いほど共生する確率が高いとした。

このモデルで、共生者の栄養提供形質、宿主の共生シグナル、共生者の共生シグナルの3者を共進化させたときに、どのようなシグナル系が進化するかを解析した。特にどのような条件でシグナルが複雑化するか、また進化する共生シグナルが複雑であるほど宿主にとっての共生の効率が上昇するかなどに着目した解析結果について紹介する。


日本生態学会