| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-033 (Poster presentation)

崩壊法面に自生するモウセンゴケの個体群動態

*須貝凌(新潟大・自然科学),中田誠(新潟大・農)

食虫植物であるモウセンゴケ(Drosera rotundifolia)は、一般に貧栄養な湿地に生育するが、非湿地環境である崩壊法面で生育が確認された。それらのモウセンゴケの個体群維持要因を、食虫植物という特性に関連付けて解明した。

調査地は、新潟県佐渡島内にある新潟大学演習林および大塚山の崩壊法面、経塚山内の湿地、富山県立山町の崩壊法面である。

植生調査の結果、初春のモウセンゴケ被度は他の植生被度よりも5%程高かった。モウセンゴケ10個体について、葉に付着している昆虫の数を記録した。月ごとの捕虫数は6月が38匹で最も多く、7月以降は6月の1/4程度に減少した。モウセンゴケは早春に開葉して光合成や捕虫を行うことで、他の植物の被圧を受けても、その後の生育や種子生産が可能であると示唆された。

モウセンゴケ個体数は、新規実生の発芽により10月まで増加し続けた。モウセンゴケの種子は8月下旬に熟す。9月以降の発芽は当年に生産された種子からのものである可能性があり、休眠しないことで、発芽不良のリスクが軽減されていると推測される。

富山県立山町において、地表面の厚さとモウセンゴケ個体数の相関を求めた。越冬個体は厚さ2.5mm以上の比較的厚い土壌に主に生育し、当年生実生は薄い土壌にも多く生育していた。人為的に捕虫を阻害したモウセンゴケ個体群と、自然な捕虫を行っていた個体群から各々種子を採取し、種子数、種子一個あたりの重さを計測した。計測後の種子は播種実験に用い、7週間観察して発芽率を求めた。種子一個あたりの重さと発芽率は、捕虫を行っていたものが、行っていなかったものより高く、捕虫は繁殖率の増加に寄与していると推測された。実生は貧弱な土壌でも発芽可能だが、撹乱による個体流失の可能性が考えられ、そのような環境で個体群を維持するために、捕虫を行い、繁殖率を高めることが重要だと思われる。


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