| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-087 (Poster presentation)

落葉広葉樹林冠木の葉群フェノロジーの年変動と温暖化応答

*長尾彩加,大橋千遼(岐阜大・応用生物),斎藤琢,村岡裕由(岐阜大・流域圏センター)

開葉や展葉、黄葉、落葉といった植物のフェノロジーは、光合成生産を介して植物の成長や繁殖、さらには生態系機能に大きく影響する。また、植物のフェノロジーは生物間相互作用を介して森林生態系の動態や安定性にも関わる。近年では、気候変動の影響による植物のフェノロジーの変化が観測されており、気温と植物のフェノロジーの関係について関心が高まっている。

本研究では、林冠木(ダケカンバとミズナラ)の葉の季節性と年々変動を明らかにし、気温と葉のフェノロジーの関係について生態学的な理解を深め、さらに今後の気候変動下での温度応答を予測することを目的とした。調査は2013年から2015年にかけて岐阜大学高山試験地の冷温帯落葉広葉樹林でおこなった。定点カメラによる葉の観測と生理的(クロロフィル含量、窒素炭素含有率、光合成速度)・形態的特性(葉面積、LMA、気孔数密度)の季節性を明らかにし、光合成生産量を推定した。また、開放型温室(OTC)を用いて模擬温暖化実験もおこなった。

両樹種ともに開葉日は、春先の気温が高かった2015年は他よりも約9日早まった。ダケカンバはミズナラよりも開葉後の葉の生理的・形態的特性の初期値が高く、開葉から成熟に達するまでの時間がミズナラよりも早かった。老化期はダケカンバのクロロフィル含量ほうが急速に減少した。光合成生産量の推定により、ダケカンバは初夏から晩夏にかけて、ミズナラは盛夏から晩秋にかけて光合成生産を活発にしていることが示唆された。また、ミズナラでは温暖化区のほうが常にクロロフィル含量と光合成能が高く、一生育期間の光合成生産量は約18%増加すると推定された。一方、ダケカンバでは加温の影響は小さかった。以上より、ミズナラはダケカンバよりも温度応答性が高いことが示唆された。


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