| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-108 (Poster presentation)

熱帯降雨林における土壌への供給前の新鮮落葉リターが持つ有機態リン分解酵素の活性について

*竹原巧(京大・農), 横山大稀(京大・農), 辻井悠希(京大・農), 北山兼弘(京大・農)

熱帯の森林生態系の一次生産を律速しているのはリンであり、そのため植物はリンを効率的に利用する様々な戦略を持つ。その中の一つに落葉時のリン再吸収効率(PRE: 生葉リン濃度当たりの生葉とリターのリン濃度差)を高める戦略が知られており、生葉リン濃度が低いほどPREは高いことが知られている。しかし、再吸収時には有機態リンを分解する必要があるが、それを担う酵素の活性を多種間で比較した研究はされていない。もし酵素活性を増大させ、有機態リンの分解能を高めることでPREを高めているのならば、リン濃度の低い葉ほど酵素活性は高いことが予想される。また、酵素活性が直接に関係するのは再吸収量であると予測されるため、PRE式の濃度差を酵素活性に置き換えた生葉リン濃度当たりの酵素活性も、PREと同じく貧リン環境で高まることが予想される。そこで、離層が形成され樹体から離脱された新鮮な落葉をリン可給性の異なる3つの熱帯林サイトから採集し、葉の酸性ホスファターゼ活性を測ることで酵素への投資量を調べ、生葉、リターのリン濃度との関係を見た。また、葉リン濃度当たりの酵素活性をサイト間で比較した。

しかし、結果は予想と異なり、酵素活性は生葉とリターのリン濃度双方と正の相関を示した。重回帰の結果、生葉リン濃度のみが有意に酵素活性に影響を与えていた。また、生葉リン濃度当たりの酵素活性のサイト平均に有意なサイト間差はなかったが、リターリン濃度当たりの酵素活性には有意なサイト間差が示され、リン可給性の最も低いサイトで高かった。これらから、器官離脱された葉のホスファターゼ活性は生葉リン濃度の影響を受けて決定され、リン量当たりの酵素活性には貧リン適応は見られず、貧リン環境におけるPREの増大には酵素活性を高める以外の戦略がとられている可能性が示唆された。


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