| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-114 (Poster presentation)

第3の花の存在が、マルハナバチの訪花行動を介して無報酬花と報酬花の関係性に与える影響~人工花を用いた閉鎖系実験~

*辻本翔平,徳江誠,石井博(富山大学)

植物には、訪花者に送粉を依存しつつも、彼らに報酬を提供しないものが存在する。このような植物が持つ無報酬花の多くは、報酬を持つ別の植物種の花に擬態する事でポリネーターを誘引している。本研究では、無報酬花にもそのモデルとなる花にも似ていない「第3の花」の存在が、ポリネーターの訪花行動を介して、無報酬花の成功にどう影響するのか、屋内実験を行い検討した。

実験には球形の人工花(φ=2cm)とマルハナバチのコロニーを用いた。人工花には花蜜として、30%ショ糖溶液(無報酬花では蒸留水)が染み出す仕組みが埋め込まれている。人工花は、無報酬花を水色か藍色、そのモデルとなる花を青色、第3の花を黄色とした。膜翅目の色覚にもとづいたヘキサゴンモデル(Chittka et al. 1992)で算出した青と水色, 青と藍色との色間距離は、それぞれ0.058、0.124である。これは、青と水色は、同時に見比べないと色の違いをハチが認識できないのに対し、青と藍色は別々に見ても違いを認識できることを意味している。これらの人工花を5種類の組み合わせで採餌場に配置し、ハチを一個体ずつ1600回以上採餌させた。

その結果、「➀青花vs無報酬花-水色」「➁青花vs無報酬花-藍色」の配置のときには、ハチは経験と共に無報酬花を訪花しなくなっていった。しかし「➂青花vs無報酬花-水色vs黄花」のときには黄花が最も好まれ、青花と無報酬花-水色は、ほぼ同程度の割合で訪花され続けた。「➃青花vs無報酬花-藍色vs黄花」のときには、無報酬花-藍色を訪花しなくなっていった。「➄青花vs黄花」のときには、ハチは青花と黄花を同程度に好んだ。これらの結果から、無報酬花にもそのモデルとなる花にも似ていない花が存在することで、無報酬花が送粉者を確保しやすくなる場合がある事が示唆された。


日本生態学会