| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-115 (Poster presentation)

ツリガネニンジンの花生態:昼と夜の送粉者の貢献度

船本大智*(筑波大・生物), 大橋一晴(筑波大・生命環境系)

ツリガネニンジン Adenophora triphylla var. japonica の花は青色で下向きの釣鐘型という、ハナバチ媒花でよく見られる形質の組合せを持つ。しかし文献を見るかぎり、この花の主要な送粉者は昼間に訪花するハナバチやセセリチョウだとする記載(田中 1997)もあれば、夜間にガ類が訪れるとの報告(池ノ上・金井 2010)もあり、よくわからない点が多い。そこで、本研究ではツリガネニンジンの野生集団において、1)昼と夜の訪花者の種類と数、2)昼と夜の訪花者の受粉への貢献度(袋がけ実験)、3)開花・雌性期への移行・蜜分泌のパターンを調べた。

その結果、以下のことが明らかになった。1)昼間にはハナアブやセセリチョウなどが、夜間にはヤガ類やノメイガ類が訪花した。昼間の訪花者の訪問頻度は、夜間の訪花者の2〜10倍も高かった。また、夜間のガ類は日没直後に明確な訪花のピークを示した。2)昼間の訪花者は受粉には全く貢献せず、自然条件下での結実は、夜間の訪花者の貢献のみによってほぼ完全に説明することができた。3)開花(雄性期の開始)時刻、雌性期への移行時刻は、いずれも日没前後に集中し、また蜜の分泌はもっぱら夜間にのみ起こっていた。

以上の結果から、ツリガネニンジンの主要な送粉者は夜行性のガ類である、と結論することができる。さらに、開花・雌性期の開始時刻の夕刻への集中、夜間にのみ行われる蜜分泌といった特徴は、この花が、花色や花形態から予測されるハナバチ媒花ではなく、夜行性のガ類に適応した花形質をもつガ媒花であることを強く示唆する。高い訪問頻度にも関わらず昼の訪花者の貢献が低かった原因としては、夜間に大半の花粉が花から持ち出されてしまい、昼間には花粉がほとんど残っていなかったことなどが考えられる


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