| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-129 (Poster presentation)

カワウの営巣が森林動態に与える影響

*杢屋貴士(東北大・生命),中静透(東北大・生命),亀田佳代子(滋賀県立琵琶湖博物館)

森林には多様な動物が生息し、消費者や分解者として生産者である植物と複雑な相互作用系を形作り、動物と植物の相互作用は森林生態系の維持にとって欠かせない。しかし、動物の影響によっては森林が全く異なる植生へと変化してしまう可能性もあり、高密度化したシカによる食害で多くの樹木が枯死する森林衰退が問題となっている。しかし一方で、シカは実生を被陰するササも減らし、森林の更新を促していることも報告されている。このように動物と森林の相互作用は更新や遷移に対して二面性を持っていると言える。カワウは内水面の林地などに集団繁殖地を形成する大型の魚食性の水鳥であり、国内では1980年代に入ると個体数の増加傾向が見られるようになった。その結果、カワウの巣材採集に伴う枝や葉の折り取りなどによって、繁殖地の林冠木が衰弱・枯死する森林被害が問題となっている。この研究では、カワウが森林動態に与える二面性とそのメカニズムを明らかにすることを目的とする。

今回の研究は、滋賀県近江八幡市伊崎半島の伊崎国有林で調査を行った。調査では営巣数データを用いて、プロットごとに全天空写真の撮影、林床植物の被覆度調査、毎木調査、実生調査を行った。そして、営巣数と林冠組成で林冠開空度、林床植物、樹木の実生・稚樹の密度や成長速度の関係について解析を行なった。

解析の結果、森林の動態はカワウの営巣数と林冠構成種の組み合わせで大きく異なることが分かった。カワウの営巣に最も脆弱である針葉樹の割合が高い森林では、広葉樹の種子供給が少なく、また林床に草本が繁茂することから、遷移や更新が促進されず森林が衰退していく可能性が高い。また、営巣数と広葉樹割合のバランスによっては広葉樹の更新、針葉樹林から広葉樹林への遷移が促進されている可能性がある。以上より、カワウが森林動態に与える影響の二面性とそのメカニズムが示唆された。


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