| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-218 (Poster presentation)

日本及び朝鮮半島に生息するモグラ類の消化管寄生蠕虫相と寄生蠕虫類の生物地理学的研究

*井出哲哉,横畑泰志(富山大・院・理工),阿部 永(元・北海道大・農)

日本の野生生物の寄生蠕虫相を理解するためには宿主の大陸からの進入や宿主-寄生体共進化、及び寄生蠕虫類の地域的な絶滅を考える必要がある。そこで著者らはモグラ類(Mogera spp.)に焦点を当て、日本および韓国産モグラ類の寄生蠕虫相を調査した。材料は本州及び新潟県粟島産のアズマモグラ(M. imaizumii )57頭、本州及び長崎県対馬産のコウベモグラ(M. wogura )35頭、そして韓国産のオオモグラ(M. robusta )39頭である。

調査の結果、オオモグラからは8種の寄生蠕虫類(毛細線虫類2種、旋尾線虫類2種、毛様線虫類1種、糞線虫類1種、そしてハリガネムシ類、不明吸虫(未同定))が得られた。日本産モグラ類2種からは上記8種に加えて毛様線虫類2種、旋尾線虫類、回虫類(幼体)、蟯虫類2種、条虫類2種が得られた。

これまで朝鮮半島に生息するオオモグラの寄生蠕虫類は、本研究が初の報告となったが、不明吸虫を除けばそれらの蠕虫類はすでに日本のモグラ類から知られていた。日本産モグラ類は朝鮮半島から陸橋を通じて日本に進入したと考えられており、最終の陸橋の成立時期から考えると、少なくとも約45ないし60万年前からこれらの宿主―寄生体関係が維持されていることが示唆された。また、小規模な島嶼では様々な宿主において寄生蠕虫類の絶滅が知られている。本研究及び過去の知見(石田ほか(2013)など)を総合的に分析したところ、日本産モグラ類からの消化管寄生蠕虫類の検出種数が小規模島嶼において減少する傾向は明瞭ではなかった。しかし、モグラに特異的な寄生蠕虫類に限定すると、この傾向は明瞭になり、島嶼における寄生蠕虫類の絶滅の可能性が示唆された。


日本生態学会