| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-240 (Poster presentation)

ストロンチウム安定同位体比からみた淡水型イトヨ(Gasterosteus aculeatus)の河川支流内移動性

*札本果(京大生態研),森誠一(岐阜経済大),久米学(国立遺伝研),西田翔太郎(岐阜経済大),申基澈(地球研),中野孝教(地球研),陀安一郎(地球研)

淡水魚個体群が他の生息域の個体群と相互に交流しているか、といった移動性に関する情報は、淡水魚個体群の分布や動態の理解において不可欠である。ストロンチウム安定同位体比(87Sr/86Sr)は、①河川水の87Sr/86Srは母岩によって異なる値を取ること、②87Sr/86Srが魚の耳石と生息地環境水とでほぼ一致することが知られている。そのため、異なる87Sr/86Srを持つ河川間において個体レベルで魚類の過去の河川間移動を調べることができる。演者らの既往研究から、岩手県上閉伊郡大槌町の淡水型イトヨ(Gasterosteus aculeatus)が生息する支流河川の一つにおいて、約580mの狭い範囲で87Sr/86Srに違いがあることが明らかとなっている。そこで、本研究では、この支流河川の上流域から下流域にかけて7地点でイトヨと水を採集し、それらの87Sr/86Srから、本種の河川内における移動性の評価を試みた。その結果、支流河川上流域で捕獲された個体はすべて、捕獲地点の水の87Sr/86Srと一致した.その一方で、下流域で捕獲された個体には、捕獲地点の水に加え、支流河川上流域の水や、本流の水の87Sr/86Srを示す個体の存在が確認された。そのことから、イトヨは支流内において上流から下流方向へ移動しているが、下流から上流方向へは移動しており、下流域には本流域から移動してきた個体も存在することが示唆された。下流域にはストロンチウムとカルシウムの元素比(Sr/Ca)が他の個体よりも大きい個体が確認された。この支流河川の最下流は汽水環境であり、Sr/Caが大きい個体は長期間汽水環境で生育していたと考えられる。


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