| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-244 (Poster presentation)

北海道十勝川水系における水生生物の比較系統地理

*大磯毅晃,小泉逸郎

多くの生物は氷期‐間氷期の劇的な気候変動の中で、地域絶滅や再移入を繰り返して現在の分布を形成した。このような歴史の一部はDNAに残されており、これまでに様々な種・地域で系統地理学的解析が行われ、集団の形成要因や過程が推察されてきた。しかし、先行研究の多くは島、大陸などの大きなスケールにおいて単一種のみを扱っており、詳細な要因を解明することは困難であった。より詳細に地域固有の生物相の形成要因を知るためには、複数種・小スケールにおいて遺伝構造を解析することが必要である。

北海道十勝川流域内にはミヤベイワナやケショウヤナギをはじめとした特殊な歴史を持つ生物が棲息しており、生物地理を考えるうえで興味深い水系である。そこで本研究では、十勝川水系における複数の水生生物の遺伝構造を調べ、現在の生物相になった過程を推察することを目的とした。対象種として、移動性が低い淡水魚3種とエゾアカガエル、ニホンザリガニを用いた。各種のmtDNAを解析し、ハプロタイプの地理的分布を求めた。本研究では、十勝の南西側に位置する日高地域、北側にある大雪地域、東部地域の3つのグループに大きく分けられると予測を立てた。

解析の結果、地史的に古い日高地域と大雪地域では深い分岐はみられず、遺伝的にほぼ均一であった。一方、地史的に最も新しい東部地域では多くの種で遺伝的な独自性が認められた。十勝川水系の西側の十勝平野は低地帯・氾濫原であるために、近い過去に河川争奪などが頻繁に起こり、日高地域と大雪地域間の水生生物の分散を促進していたのかもしれない。また、東部地域が遺伝的に隔離された要因として、南北に走る居辺台地が分散を制限していたことが考えられる。以上より、十勝川水系における水生生物相の形成には、古い歴史ではなく、近い過去あるいは現在の地形要因が大きく影響していることが示唆された。


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