| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-248 (Poster presentation)

琵琶湖水系産オイカワの遺伝的構造 ―”清流の女王”はなぜ止水域にも生息するのか―

*北野大輔,高倉耕一(滋賀県大・環境)

種の集団構造は、その生物の自然史を理解するだけでなく、種内の遺伝的多様性を含めた保全を考える上の知見としても非常に重要である。コイ科魚類のオイカワ Opsariichthys platypus は、種内の遺伝的多様性が国内外で報告されており、特に琵琶湖に生息する本種には多様な遺伝子タイプの存在が示唆されている。既存の研究は国内移入種としてのオイカワに注目したものだが、原産地の琵琶湖水系にオイカワについてはほとんど研究されていない。

滋賀県内35地点において計140個体のオイカワを採集した。調査地点の環境別にオイカワの側線鱗数および体高比をTukey-Kramer検定により多重比較した。その結果、止水域の個体は河川の個体よりも有する側線鱗数が有意に大きく(p<0.01)、体高比は有意に小さかった(p<0.05)。しかし、この変化は表現型の可塑性として遺伝的な変異とは関係なく起こっているかもしれない。

採集個体のミトコンドリアDNA cytochrome oxidase I領域(COI)およびcytochrome b領域(cyt b)の分析を行なった。COI領域は120個体において397bpを決定し、最大3塩基が異なる15ハプロタイプが検出されたが、系統樹の信頼性を示すブーツストラップ値は低かった(11~65)。これは、COI領域の分析が本研究に適さなかった可能性があり、琵琶湖系統集団の遺伝的多様性を過小評価しているのかもしれない。一方で、関東に定着した琵琶湖系統オイカワの系統判別に用いられたプライマーセットではcyt b領域の増幅はほぼ起こらず、13個体のみで1150bpを決定した。その配列には50塩基座で塩基置換がみられ、13個体は全て異なった配列を有していた。従って、琵琶湖水系個体の本領域の変異はより多様で、プライマー結合部にまで変異が及んでいる可能性がある。


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