| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-310 (Poster presentation)

長野県ツキノワグマ個体群における集団遺伝学的研究

*田村大也(京大院・理・生物), 早川美波(碧南海浜水族館・青少年海の科学館), 林秀剛(信州ツキノワグマ研究会), 岸元良輔(長野県環境保全研究所), 東城幸治(信州大・理・生物)

森林生態系の『アンブレラ種』とも称されるニホンツキノワグマを保全することは、長野県の多様な生物相全体を保全することにも繋がる。周辺地域より推定個体数が多いとされる長野県はツキノワグマの重要な生息地の1つであるが、近年頻発しているツキノワグマの大量捕殺など、保全の面では新たに考慮するべき点も多い。また、市街地の発達や道路・鉄道等の整備は、個体群の遺伝構造に影響を及ぼすことが予想される。現在、長野県では、効果的な保全のため、8地域個体群に区分し、保護・管理が行われているが、この区分が遺伝構造を反映しているのかどうか、十分に検討されていない。本研究では、長野県個体群における人為的影響の評価や地域個体群区分の妥当性の評価を目的に、2006-2013年に長野県内で捕殺されたツキノワグマ291個体を用いて、mtDNA制御領域、核DNA MHC DQB領域、マイクロサテライト3遺伝子座の解析を行った。

8地域個体群のうち、八ヶ岳地域個体群では遺伝的多様性の低い傾向が認められた。八ヶ岳地域個体群は、推定生息数が著しく少ないことから地域個体群の存続が懸念されているが、遺伝構造の面からも保全の希求性が示された。遺伝的分化係数およびSTRUCTUREによるクラスター解析から、長野県個体群は主要3グループから構成されることが明らかとなった。すなわち、一部においては、現在の8地域個体群区分の境界を越えるような分散や遺伝子交流が起きている(起きていた)と考えられる。本研究において、一部地域での遺伝的多様性の低下、遺伝子交流の観点からの地域グループ区分の知見が得られたため、これらの遺伝的側面にも配慮した保護・管理計画への進展が期待される。


日本生態学会