| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-314 (Poster presentation)

クマガイソウ個体群の遺伝構造ー断片化の遺伝的影響と種子繁殖の現状ー

*山下由美(福島大・共生システム理工), 伊津野綾子(京大・農), 辻田有紀(佐賀大・農), 黒沢高秀(福島大・共生システム理工), 井鷺裕司(京大・農), 兼子伸吾(福島大・共生システム理工)

クマガイソウCypripedium japonicum Thunb.はラン科アツモリソウ属の多年草で,日本各地の暖温帯林,竹林,スギ植林等に生育する。しかし,近年,園芸用採取,森林伐採,自然遷移などの要因により個体数を減らし,環境省レッドリストで絶滅危惧II類(VU)に指定されている。これまでの生育地の経年観察と地下部の形態から,繁殖は地下茎による栄養繁殖に主に依存していると考えられているものの,その実態は明らかではなかった。演者らは核マイクロサテライトマーカーを開発し,国内の自生10集団と域外保全6集団において,25遺伝子座について遺伝的多様性と遺伝構造を評価した。その結果,遺伝的多様性はどの集団においても低く,対立遺伝子多様度(AR)は1.25から1.78であった。確認されたジェネットの数は,集団毎に著しく異なり,20以上の遺伝子型が存在する集団もあったが,ほとんどすべての個体が同一のジェネットで占められると考えられる集団もあった。この結果は,クマガイソウにおける種子繁殖と栄養繁殖への依存度が各集団において異なることを示している。また,遺伝的分化の指標であるFSTの値はほとんどの集団間で0.05より大きく,各集団は遺伝的に分化していた。また,STRUCTURE解析の結果は,ほとんどの集団がボトルネックを経験していることを示唆しており,生育地の断片化が遺伝構造に影響を与えたと考えられる。


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