| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-328 (Poster presentation)

底質粒径が絶滅危惧種カワヤツメの初期幼生に与える影響~ワンド地形が持つ有用性~

*荒川裕亮,柳井清治(石川県立大)

カワヤツメ(Lethenteron japonicum)は無顎類に属する遡河回遊性の生物であり,3億5千年前から存在する脊椎動物である.近年個体数が減少し,2007年に環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に登録された.その減少要因として河川の護岸化など人為的な環境改変による,河川の底質に潜る(以下潜砂)幼生の生息地への影響が挙げられる.本研究は石川県能登半島の町野川において,幼生の生息環境(特にワンド地形)と孵化直後の初期幼生に着目し,野外調査や室内実験を行い,その減少要因を検討した.

1)野外調査は2014年9~11月の計3回行い,コドラート(5×1m)をワンド区と対照区に設置し,幼生の個体数密度と物理環境を測定した.2)人工授精を行い,孵化直後の幼生(体長約1mm)と4か月ほど成長した幼生(体長約4mm)を用意し,それぞれ4段階の粒径にわけた底質が入った容器に投入し潜砂状況を確認した.3)容器内の環境を変化(底質を投入・カバーとなる繊維を投入・何も投入しない)させて,初期幼生と餌を投入し,生存率と成長率を比較した.

この結果,1)ワンド地形では対照区に比べて幼生が多く確認され,9月の調査では有意に個体数密度が高かった.またワンド地形で細粒砂が有意に多く,粗粒砂が有意に少なかった.2)幼生(体長約4mm)は極細粒砂と細粒砂でよく潜砂し,粗粒砂では潜砂しなかった.しかし孵化直後の幼生は最も細かい極細粒砂で潜砂していた.3)生存率と成長率は底質を投入した処理で高い傾向が見られた.

以上の結果から幼生は潜砂に適した細粒砂が堆積するワンド地形を生息場として利用しており,潜砂することで着実に成長し,捕食者からも逃れることができると考えられる.河川の護岸化によるワンドの消失はカワヤツメの減少要因の一因となっており,特に孵化直後の幼生に大きな影響を与えると考えられる.


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