| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-332 (Poster presentation)

準絶滅危惧種マダラヤンマにおける生息場所利用と果樹園との関係

*阿部建太,高橋大輔(長野大・環境ツーリズム),早川慶寿(マダラヤンマ保護研究会)

マダラヤンマは長野県以北に局地的に分布するヤンマ科のトンボであり、環境省RDBでは準絶滅危惧種に指定されている。本種は羽化直後の未熟な時期を羽化水域からやや離れた森で過ごすとされており、発表者らの昨年度の調査結果からも、本種が生息する池には近くに森や果樹園などがあることが重要であると考えられた。今回、長野県上田市の36のため池において、マダラヤンマの生息の有無とため池の環境特性との関連性についてバッファ解析を用いてより詳細に調べると共に、本種を含めたトンボ類の果樹園利用の可能性について調査した。本種が生息する池か生息しない池かを目的変数とし、ため池周辺の森林面積など4項目を説明変数とした一般化線形モデルによる解析から、本種の生息有無を予測するモデルには、森林面積、果樹園面積、産卵基質である抽水植物が池の周囲を占める割合の3変数が重要であることがわかった。また、本種が生息するため池に隣接する果樹園でルートセンサス調査等を行ったところ、園内に滞在する個体を含め一定数のトンボ類の存在を常時確認することができた。園内にはトンボ類の餌となる飛翔性小昆虫が多く見られた一方で、主な捕食者である鳥類は確認されなかった。また、園内での農薬散布後、一旦トンボ類の個体数は減少するものの、約一週間後には農薬散布前と同程度の個体数に回復していたため、トンボの生存に悪影響を及ぼす可能性がある農薬の散布の効果は、一時的なものであると思われた。本研究は、マダラヤンマを含めトンボ類において果樹園は森林の代替機能を果たすため、長野県において盛んな果樹栽培を維持・管理していくことは、トンボ類の保全に重要であることを示唆する。


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