| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-370 (Poster presentation)

バイオチャー散布が与える森林土壌への影響―新たな森林管理法を目指して―

*酒井理恵(神戸大学・農), 友常満利, 北村今日子, 藤嶽暢英 (神戸大学・院・農)

近年、植物遺体などの有機物を炭化させたバイオチャーの散布が、森林生態系への炭素吸収能を向上させる可能性が示され、その効果が検証されつつある。バイオチャーは、これまで土壌改良剤として農作物の収量増加のために利用されてきたが、バイオチャーの散布が森林生態系、特に土壌圏に与える影響についてはほとんど研究されていない。そこで本研究では、森林へのバイオチャー散布が土壌環境および土壌微生物へもたらす影響を評価した。

埼玉県本庄市の暖温帯コナラ林に、10 m×10 mの方形区を2つ設け、400 kgの炭を土壌表層の上に散布しリターを被せた試験区 (散布区) と対照区 (非散布区) を用意した。散布から一年半後に、両区の土壌 (深さ5 cm) の化学特性 (全炭素、全窒素、有効態リン、pH、EC) および希釈平板法を用いて微生物相 (細菌・糸状菌) を測定した。また、散布前の炭と散布区で回収した炭も同様に分析した。

非散布区に対して散布区の土壌では、全窒素の減少や有効態リンの増加、さらにはpHの上昇が認められた。また、炭自体は散布前に比べて全窒素が増加し、有効態リンが大幅に減少した。これらは、リターから土壌へ供給されるはずだった窒素の一部が炭に吸着し、また炭に含まれる有効態リンが土壌に供給されたと推察される。土壌中の細菌・糸状菌のコロニー数は両区の土壌に有意な差は認められなかった。しかし、散布後の炭自体においては、細菌のコロニー数が土壌の4倍の値を示したことから、炭自体に土壌微生物の住処としての役割があると考えられる。以上のことから、森林へのバイオチャーの散布は土壌環境へ影響を与え、またバイオチャー自体にも重要な役割があることが示唆された。


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