| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-395 (Poster presentation)

複数の経路で導入される他殖性ドクムギ属の砂浜への分布拡大プロセス

*樋口裕美子, 下野嘉子, 冨永達(京大・農)

外来種の進化について、近年侵入段階や系統を考慮したより詳細な集団間の比較の必要性が提唱されている。特に、導入から分布拡大に至る過程では、外来種が侵入先で新たな環境に遭遇し短期間で進化的変化を生じる可能性がある。異なる地域からの複数回導入が普遍的である現在、分布拡大時に起きたプロセスを正確に評価するためには、外来種の導入源を把握し、導入地と分布拡大地の集団を比較することが必要である。そこで本研究では、牧草や緑化資材としての農耕地への意図的な導入、および輸入穀物混入種子のこぼれ落ちによる輸入港への非意図的な導入の2経路により、遺伝的に異なる個体が導入されているイネ科草本他殖性ドクムギ属(Lolium spp.)について、導入地である農耕地および輸入港と、分布拡大地である砂浜の集団を比較して、砂浜への分布拡大プロセスを解明することを試みた。

形態形質および核SSR7遺伝子座を用いた比較から、関東、関西、九州の3地域で、砂浜の集団は形態的、遺伝的に輸入港の集団に類似しており、砂浜に分布拡大しているドクムギ属は輸入港に非意図的に導入された個体に由来すると推定された。同一環境条件下での栽培実験から、3生育地集団は複数の生活史形質において分化していることが明らかになり、遺伝構造が類似していた輸入港集団と砂浜集団の間にも、開花期や植物体サイズに差がみられた。砂浜および農耕地で相互移植実験を行ったところ、砂浜での生存率は砂浜集団で最も高くなった一方、農耕地集団で最も低くなった。農耕地では農耕地集団が他の集団に比べ圧倒的に高い成長量を示したが、砂浜ではその優位性はみられなかった。これらの結果は、導入集団間の生活史特性の違い、および短期間での適応進化の両方が砂浜への分布拡大に影響したことを示唆している。


日本生態学会