| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-410 (Poster presentation)

エゾシカによるリター分解過程への影響 -樹種選好性および葉と根の違いを考慮して-

*笠原暢(横浜国大・環境情報), 藤井佐織(アムステルダム自由大), 谷川東子(森林総研関西), 森章(横浜国大・環境情報)

森林生態系において、シカなどの有蹄類の増加が生態系プロセスに影響を及ぼし問題となっている。シカの踏圧により生じる土壌浸食は分解者である微生物の活動を低下させるなどして、分解プロセスに影響することが知られている。一方、シカによる採食には樹種選好性があり、シカの増加は土壌に供給されるリター基質の変化を通して分解プロセスに影響すると考えられる。本研究では、シカの選好性の異なる3樹種を用いたリターバッグ実験を行い上記の仮説の検証を行った。実験地は北海道、知床半島の天然林で、13年前より防鹿柵が設置されている。シカの選好性が高い順にオヒョウ、ミズナラ、トドマツを選定し、葉リターと同様に主要な有機物供給源である細根リターも考慮して、葉と根のリターバッグを作成した。2014年6月にこれらを防鹿柵内外に3ヶ月間設置し、回収後乾燥重量を測定した。結果、葉と根で柵外の重量残存率が有意に高くなった。葉の重量残存率は樹種間でも有意差があり、シカの選好性の低い樹種ほど分解されにくい傾向が見られた。一方、根では樹種間で重量残存率に差が見られず、全樹種で葉よりも分解速度が小さくなった。これは葉より根でC/N、リグニン濃度が高かったためと推察される。シカが増加すると、葉リターの供給に関しては、分解されにくい不嗜好性種の優占割合が高くなり、根リターは摂食されず樹種に関係なく残留する状態が繰り返される結果、シカによる選択的採食が森林土壌における分解速度を低下させることが示唆される。よって、シカの増加は直接的な土壌環境の改変だけでなく、選択的採食による葉と根の分解プロセスの変化を通して森林内の養分循環に影響を与える可能性がある。


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