| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-411 (Poster presentation)
熱帯低地林では、樹木や微生物の活性はリン(P)によって制限されている。樹木や微生物は、不足するリンを獲得するために土壌有機態リン(土壌Po)の分解酵素ホスファターゼを分泌し、土壌Poの分解能を高めて無機態リンを獲得する。土壌Poは多様な化学形態をとり(モノエステル態、ジエステル態、ピロリン酸、フィチン酸)、形態によって分解特性が異なる。そして、これらPo形態に応じた多様なホスファターゼの働きで分解が進行する{それぞれホスホモノエステラーゼ(PME)、ホスホジエステラーゼ(PDE)、ピロホスファターゼ(PyP)、フィターゼ(PhT)}。
しかし先行研究はPME・PDEのみの評価に限られるため、P欠乏に対し樹木や微生物がどの形態の分解能を高めているのかは未解明である。そこで、マレーシア・サバ州の熱帯低地林の野外施肥試験地{2森林(原生林・二次林)×4処理(対照・N・P・NP)}において、細根と土壌のホスファターゼ4種の活性を測定した。P施肥によって土壌無機態Pが増大するので、樹木や微生物のP欠乏状態が解除される。その結果、「P欠乏環境で分解能を高めていたPo形態」のホスファターゼ活性は減少すると予想される。
【細根酵素】対照区のPME・PyP活性が原生林で高く、PhT活性が二次林で高かった。P施肥では、PME、PyP、PhT活性が減少した。【土壌酵素】P施肥でPME、PyP活性が減少した。
つまり、P欠乏地で樹木と微生物は特定のPo形態の分解能を高めること、また、遷移段階によって樹木は異なるPo分解能をもつことが示された。これは樹木や微生物が群集組成や栄養条件によって異なるPo獲得戦略をもつことを意味する。