| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-412 (Poster presentation)
溶存有機物(DOM)は、水域においてエネルギーフローの起点となる重要な物質である。湖沼のDOMの供給源の1つに藻類由来のDOM(AOM)があるが、その特性は藻類種や状態により異なる。また、藻類へのツボカビなどの寄生に伴い量や質が変化する可能性がある。そこで本研究では、珪藻Synedraとそれに寄生するツボカビを用いて、AOMの量と成分を時間を追って測定し、ツボカビの有無によるAOM特性の違いについて考察した。
Synedra培養系(S系)および寄生性ツボカビが存在する系(SC系)を培養し、時間を追って各培養液を採水した。Synedraとツボカビの計数を行うとともに、DOM炭素量および三次元励起蛍光スペクトル(EEM)-PARAFAC法により蛍光性AOM成分を測定した。
S系のSynedra密度は時間とともに増加した。SC系ではSynedra密度とツボカビ寄生率の変化から、ツボカビ寄生がSynedraを衰退させたと考えられた。
両系のDOM炭素量は培養後半に増加しS系で有意に高かった。EEM-PARAFAC法により検出された5つのAOM成分のうち、微生物起源様物質(C1)はSC系で多く、トリプトファン様物質(C2)はS系で多く産生された。C1は、藻類の微生物分解に由来する難分解性成分といわれている。ツボカビ寄生によってSynedraが枯死することで産生量が増加したと考えられた。一方、C2は藻類の光合成由来の易分解性成分であるといわれている。C2とSynedra密度に正の相関がみられたことから、藻類の増殖に伴い産生量が増加したと考えられた。以上の結果より、藻類へのツボカビ寄生は、藻類の枯死による微生物分解由来の成分と光合成由来の成分の産生に影響を与えることが示唆された。